手
2003年7月17日yasuの手を、思い出していた。
学生の頃は、ベースの練習をしていたから、
弾きダコが出来ていた。
「ベース弾く時間があるんなら、ちゃんと勉強してるんだろうね?」
いつも、私は、そういう言い方しか出来なかった。
タバコに火をつけながら、
「余裕!余裕!」って、笑っていた。
タバコを持つ指に、男を感じた。
仕事を始めたyasuは、
仕事柄、とても、ゴツゴツした手になっていた。
私は、その手が、大好きだった。
細く長い指より、
男らしい、そんな手をずっと眺めていた。
yasuの気持ちを知ってから、
私はわがままを言って、yasuのサッカーの試合を見に行った。
打ち上げの飲み会まで、付き合っていると、
最終の新幹線に乗り遅れてしまった。
駅前のビジネスホテルを予約してくれたyasuと、
ホテルの前で別れようとした。
「電話で言った事は、本当だから・・・」
yasuは、それだけ言った。
私は、yasuの手を取った。
「私、yasuを苦しめる事が分かっていて、
一緒にいられない・・・」と、言った。
yasuはうつむいたまま、目を伏せていた。
別れる事が分かっていて、始められない・・・
それが、私の結論だった。
だけど、yasuの顔を見たら、
隠してきた自分の気持ちが、溢れてきた。
yasuの手は、あの頃よりもっと、男になっていた。
このまま、この手を離さないでいてくれたら、
強引に連れ去ってくれたら・・・
もう、想いは、願いになっていた。
手が、離せなくなりそうになった時、
yasuの携帯が鳴った。
一生に帰る約束をしていた幼なじみだった。
私は、そっと、手を離した。
あの手のぬくもりは、
yasuの温かさだった。
私は、あの温かさに包まれて生きてきたのだと、
改めて感じた。
もう触れる事さえない、yasuの手・・・
私にとって、
あのぬくもりこそが、yasu自身かもしれない。
コメント